ケアポート益城
第26回熊本アートポリス推進賞/建築ジャーナル2022.8
▪️竣工 2020年3月  
▪️用途 介護老人保健施設  
▪️構造 鉄筋コンクリート造 2階建て
▪️敷地面積 11142m2
▪️建築面積 2919m2
▪️床面積  4159m2
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建替経緯
2016年4月に発生の熊本震災は、熊本の大地と人々に大きな傷跡を残した。中でも14日、16日の2度にわたり震度7を記録した益城町の被害は甚大で、前身のケアポート益城の建物(コンクリート造4階建て2871m2)も擁壁の崩壊とともに基礎杭の破断が発生し、改修不可能な状態にまで被害が広がった。特に隣接の住宅地近くの擁壁は震災後の余震とともに崩壊の規模が拡大する状況の中、住宅地の安全確保のためには建物の撤去以外の選択肢は残されていなかった。

計画要望
2016年の6月に基本設計に入る。その際の要望事項は
○同規模の地震でも壊れない建物
○安全に避難できる建物(今回の震災時にはエレベーターが使えず、人力で上階から利用者を避難させた経緯があった)
○近隣住宅地の安全に配慮した建物(土地のレベル差による擁壁の扱い)
○地域の復興のシンボルとなる建物
安心安全な建物は当然なことであり、加えて震災後、まだ人々が不自由な生活を強いられている中では、少しでも早く前に進む姿勢見せることは大事なことと思えた。

計画概要
○二つの避難階
 建物の強度確保と避難の容易さを考慮すると、平家建てが最も望ましい。そのため周辺敷地を購入し拡大を計るものの、計画床面積も既存の4、5割増しの要望の状況では厳しいものであった。そこで次に検討したものが、2階建てとしながらも地盤に1層分のレベル差を設けることで、2層ともに避難階とすることであった。既存地盤の住宅地側を3.5m削りとることは、隣地との敷地レベルを縮小することにも繋がり、建物及び近隣の安全安心に大きな寄与をすることとなった。過去の敷地関連図を見ても住宅地へと降るなだらかな傾斜であったことからも、元の地山の形状に戻すことは地盤とっても近隣にとっても自然なことと思われた。
○自然(大地)の中で
 災害を体験すると一時期は自然や大地の脅威に怯えることなるが、所詮私たちは、その中で生活を営むことしかできない。ならば畏敬を持ちながらも、もっと身近な関係でありたい。ここでは、接地性を高めた敷地形状の中、より自然との関連の強い農場のような施設群をイメージした。大きなサイロや煙突を配置した素朴な形態の屋根がつながる。機能性を持ちながらも、できるだけ手の跡が残るような素材と施工方法を選択した。屋根と外壁はガルバの無機質な金属板であるが、ランダムな色配置によるムラを表現。内部でフンダンに採用している無垢の木材の色ムラと呼応している。
自然の恵と脅威を感じながら、ともに生活していく、そんな関係回復の願いを込めた。